大きな音で一瞬にして目が覚める。
私が体を起こすと、目の前にはこの前見た、銀髪の綺麗な男性が立っていた。
衝撃を感じて一瞬にして目の前が真っ暗になっていく。
倒れるところを誰かの手に受け止められた瞬間、私の意識は完全に闇にのまれた。
この気持ちのいい朝の公園には似つかわしくない、よれよれの寝間着姿に見える男性。
大きく『無罪』と書いてある。
とにかく、あんまり近づきたくない感じの人なのは間違いなさそうだ。
私は、さりげなく道を変えて公園を後にするのだった。
逆上した男性が警察官に殴ろうとする。
無防備な警察官が、酔った男に殴られる瞬間を誰もが予想した次の瞬間――。
私は次に訪れる衝撃を予測して、思わず目を瞑る――。
私は恥ずかしい気持ちを押し殺し、思い切って
アーサーの腕に抱き着いてみた。
いつも通りの無表情だった。
私はアーサーの腕にぎゅっと身体を寄せてみた。
……だけど、やっぱり反応はない。
私がさっきと同じように銃を構えると、キールさんが
肩や腕、ひじなどの位置を直してくれる。
偶然にも、正確に。
銃口は私へと照準されていた。
凍りついたように固まった空気の中、
そのことだけは明確に感じ取ることができている。
私は中途半端に放り出された身体を、
どうすることもできないまま、
目標が引き金を引くのを、ただ見守るしかなかった。
いくら鍛えられた人間であっても、
咄嗟に反応できるはずがない。
だけど――
――だけど、ゼロは違う。
ゼロは常人の感性、いいえ、
野生の獣すら凌駕する反射神経で、
私の前に飛び出していた。
ARK本部から出たその足を、どうしようかな、と
野良猫ぐらいしかいない街路にさ迷わせる。
その時、誰かの腕がいきなり腰に回され、私は変な声を上げてしまった。
驚いて目を向ければ、それは私より先に本部を出たはずの翔太さんだった。
腰に回された腕からもぞもぞと抜け出しつつ、挨拶をする。
だめ……このままじゃ累さんが……。
累さんの心が壊れちゃう!
なんとかして累さんを落ち着かせないと!
気がつけば、私は累さんの体を抱きしめていた。
騙されたとか、裏切られたとか、この瞬間どうでもよくなっていた。
思う前に身体が動き、リードさんに抱きつく!
何故だろう?
理由は分からないけれど、涙と嗚咽が止まらない!
有働さんがこっちに迫ってくる。……いつもの気弱な有働さんじゃない。
キールさんの時とも違う顔で……
私は自然と後ずさりをしていた。
有働さんの動きはゆっくりで、距離は離せると思ったのに。
でも、私は有働さんから逃げられない。
気づけば、壁際にまで追い詰められていて……
前から迫ってくる有働さんの存在感の大きさに、
私は左右、どちらにも逃げられなかった。
有働さんの手が伸びてきて、私の頬に触れる。
そして、私の心の中にまで侵入してくるように撫でながら――
呟くと同時、がばっとアーサーは私を抱きしめた。
そういった伶は、私へと腕を伸ばし、そっと抱きしめてきた。
熱い……。
温かい胸の中に私は抱きすくめられ、私の心臓は激しく鼓動を鳴らす。
嘘をついている余裕なんてない。
伶の、男の人の腕で優しく抱きしめられたら、
これ以上の意地を張るなんて絶対に無理……。
ベッドから身を起こし、翔太さんを室内に招じ入れる。
今日は何の用なんだろう。
微妙に疑わしい。前が前だけに。
それにしても、とにかく今夜の彼は機嫌が良さそうだった。
いや今夜というより、ここのところずっと
翔太さんはやけに機嫌がいいように見える。
頭を撫で、背中を叩く。
累さんが胸に顔を押し付けてくるのを、ぎゅっと力一杯抱きしめる。
累さんは、私の名を呼びながら
貪るように温もりを求めてくる。
体の震えは、まだ止まらない。
私も何度も「大丈夫」と語りかけ、
累さんの求めるままにしているうちに……。
私を抱きしめ返してきた累さんが、不意に私をベッドに……。
一瞬、驚いて私は声をあげた。
間近に、累さんの顔があった。
累さんは、じっと私の目を見つめている。
『Mission:Trick and Trick or ...?』
10月31日――
unknownのセーフハウスに置かれたテーブル、
というか会議室によく置いてある折り畳み式の長テーブルのそばにはパイプ椅子が3脚。
座っているのは、unknownのエージェントであるアーサーと真壁玲奈、霧島悠斗。
多数のエージェントが、ARKとの戦いによってunknownを離れることとなり、
この数か月はほぼこの3人で各地を転々としている状態だ。
インスタントコーヒーで満たされたカップをテーブルに置くと、
霧島を一瞥し、アーサーは口を開いた。
「それは、お前がunknownのエージェントだからだ」という言葉が喉まで出かかったアーサーだが、
何を言っても霧島には無駄だと考え、沈黙を選択した。
真壁は、「霧島の方がよっぽど道化みたいな服を着ている」と続けようとしたが、
極力会話したくないので睨むだけに留めた。
真壁の態度にチッと舌打ちした霧島だったが、
すぐにニヤニヤと笑いながら近くの棚からクッキーを取り出した。
ジャック・オー・ランタンやコウモリが描かれた可愛らしくて美味しそうなクッキーだが……
ボロボロのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめ愉しそうに微笑む真壁と、
涼し気な顔でコーヒーを飲むアーサーに対し、
霧島は「マジでこいつらとは絶対仲良くできない」と思いながら、
自作のハロウィンクッキーを口に放り込んだ。
※画像とテキストは開発中のものです。